食の壁に挑むヴィーガンパティシエに聞きました①
すべての子どもたちにケーキの夢を
【はじめに】
アレルギーがあっても、価値観が違っても、「みんなで同じものを、同じ場所で、笑顔で食べられる」。
そんな「食のボーダレス」に挑戦を続けてきた一人のパティシエがいます。
ヴィーガンスイーツ専門店【hal okada vegan patisserie 】の岡田春生さん。
テレビ番組『情熱大陸』(2022 年 12 月 25 日放送)にも出演され、 卵や乳製品を使わない今や アレルギー対応ヴィーガンスイーツの第一人者として知られる岡田さんですが、その道のりは試練の連続でした。
――――お話をうかがう前に、 看板商品の「苺のショートケーキ」「プレミアムモンブラン」「ロイヤルショコラ」をいただきました 。もともとヴィーガンスイーツには軽やかでヘルシーな味をイメージしていたのですが、 実際に食べてみると、心地よい背徳感をしっかり抱くほどの濃厚さ!

卵や乳製品不使用であることを忘れる、「普通に」 おいしいケーキがそこにはありました。
そんなケーキを生み出した岡田さんの 35 年にわたる歩みを、 N’s KITCHEN のきなこが伺いました。
岡田春生さんが「hal okada」になるまで
そもそも「アレルギー対応」って何を対応する の?
N’s KITCHEN(以下、N’s)
食品アレルギーに馴染みのない読者の方もいらっしゃると思います。そもそも「アレルギー対応」のスイーツを選ぶ時は、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
岡田さん(以下、岡田)
まず、アレルギーの原因食材は、卵、乳製品、小麦、ナッツ、大豆、果物など人によって本当にさまざまです。だから「アレルギー対応」と書いてあっても、何に対応しているのかを必ず確認する必要があります。
N’s
「アレルギー対応」と書いてあれば誰でも安心、というわけではないのですね。
岡田
そうです。だからこそ、アレルギーがある方は、必ず原材料や製造環境を確認してほしいです。
【hal okada vegan patisserie】では、卵や乳製品などの動物性食品を使わないスイーツを展開しています。
ただし、商品によって使用している原材料は異なります。アレルギーをお持ちの方は、必ず商品ページの原材料や注意事項をご確認ください。
N’s
お菓子の「三種の神器」ともいえる卵、乳製品、小麦粉に配慮するとなると、かなり難しそうです……!
岡田
そう、普通のケーキの骨組みやコクをつくる主役たちですからね(笑)。これらを使わず、大豆や米粉などの植物性素材だけで「普通のケーキと変わらずに美味しいもの」をつくるのが僕たちの挑戦です。


「なにこれ、可愛い!」から始まったパティシエ人生
N’s
そんな常識を覆す岡田さんですが、パティシエを選んだ理由は?
岡田
18歳の頃、「とにかくモテたい、格好つけたい」の一心でした(笑)。
当時(1990年代)はカリスマ美容師ブームの走りで、僕も美容師を目指して原宿の店を見学したりしていたんです。
でもある日、暇つぶしで製菓専門学校の体験入学に行ってみたら、人生が変わりました。初めてつくったマドレーヌに「なにこれ、可愛い!」って衝撃を受けて。
N’s
原宿ボーイが急にメルヘンの世界へ!
岡田
僕、もともとプラモデルづくりが大好きだったんです。お菓子づくりって、パーツを一つずつくって最後に組み上げるから、プラモデルと同じ「立体造形」なんだよね。
それに当時は美容師よりライバルが少なくて目立ちそうだし、「ケーキ職人」って言った方がモテそうだなという不純な動機でした(笑)。
ホテルでの「ザ・修行時代」
【編集部注】
製菓専門学校を卒業後、岡田さんは横浜の名門ホテルへ就職。
しかしそこは、華やかな洋菓子のイメージとは違い、厳しい世界でした。
岡田
何度も逃げかけたけれど、「石の上にも三年」と言われた時代。
「絶対に手を抜かない」という感覚が今でも体に染みついています。

N’s
その厳しい環境を生き抜き、27 歳でアシスタントシェフ(ホテル史上 2 人目の快挙)になられたんですよね。
岡田
その当時は「俺につくれないお菓子はない」「私、失敗しないので」っていう全能感の塊。
そんな天狗の僕のもとに、ある日「卵・乳製品を一切使わない バースデーケーキ」という、8 歳のアレルギーを持つ女の子のご家族から特注依頼があったんです。
8歳の子どもが、一度もケーキを食べたことがない
岡田
最初は断ろうと思った。洋菓子にとって卵と乳製品は人間でいう「心臓」です。それを抜くなんて成立しない。
でも、お客様から「娘の毎年誕生日の2か月前からケーキ屋さんを何軒も回るけれど断られ、毎年大福にろうそくを立ててお祝いしている。」と伺い、胸が切なくなって。

N’s
大福にろうそく……。その光景を想像すると、胸がキュッと締め付けられます。
岡田
目で人を楽しませ、味で幸せにするのが洋菓子屋の仕事なのに、それを知らない子がいるのかと。
「よし、俺が夢を叶えてやる!」と引き受けました。
なんてカッコつけているけれど、ここで断ったら後輩たちの手前格好悪いという見栄もあった。
ただ、当時はネットも普及してなくて、アレルギー対応のレシピ本なんてどこにもない。
啖呵を切ったものの困り果てて人生で初めて図書館へ行き、万策尽きかけた時に偶然目に留まったのが、まさかの「犬用クッキーの本」(笑)。
N’s
い、犬用ですか!?
岡田
そう(笑)。
【卵・乳不使用】で犬用とはいえ焼き菓子が成立している事実は暗闇の中の大きな光だったね。
でも、レシピの配合を見た瞬間に「あ、これじゃあ人間には硬すぎる。犬しか食えんわ」って分かった。

苦い大豆の記憶が、奇跡のピースに変わる
岡田
実はその前に、ホテルで糖尿病患者向けフルコースのデザートを担当した時に「豆乳」を使ってヨーグルト風ソースをつくったことがあって。
当時は「なんか豆臭いな」くらいにしか思わなかったけれど、「あの豆乳をもっと固めて組み合わせたらクリームっぽくなるんじゃないか?」とひらめいて、そこからそこからバラバラだったピースが繋がり始めたね。
その後、何度も試行錯誤を重ねたけれど納期までに納得できるものはできず 、プロとしては悔しいけれど、その時点の限界の状態で仕上げてお渡ししました。
形としてのホールケーキは完成したものの、申し訳なさで胸がいっぱいだった僕のもとに、後日、女の子から一通の手紙が届いたんです。

うまれてはじめてケーキをたべました。ありがとうございました。
岡田
嬉しさと同時に、プロとしての罪悪感が残る出来栄えだっただけに、本当に胸が痛かった。
でも同時に、この苦い経験を乗り越えて圧倒的な技術を身につければ、誰にも真似できない自分だけの強みになる、と確信した瞬間でもありましたね。

【編集部注】
完璧には遠かった初めてのアレルギー対応ケーキ。
それが植え付けた消えない問いの答えを探すため、32 歳の時に12 年勤めたホテルを巣立ち、次に向かったのは当時の洋菓子界からは想像もつかない「マクロビオティック」の世界でした。
岡田春生 PROFILE

- 1972年、神奈川県横浜市生まれ。
名門「ザ・ホテルヨコハマ」のパティスリー部門に12年間勤務し、一流のクラシックな洋菓子技術を叩き込まれる。
2004年、老舗料理店のパティスリー部門へ転職。まだ黎明期だったマクロビオティックスイーツの開発責任者として10年間にわたり数々のメニューを世に送り出す。
2015年4月、神奈川・鎌倉にヴィーガンスイーツカフェ「hal cafe 229」をオープン。
2020年8月、東京・広尾(広尾駅2番出口から徒歩1分)にヴィーガンスイーツ専門店「hal okada vegan patisserie」をオープン。遠方の方はオンラインで注文できます。
アレルギー対応ヴィーガンスイーツの第一人者として、誰もが同じように食を楽しめる「食のボーダレス」の実現に向けて挑戦を続けている。 - hal okada vegan patisserie 公式サイト
- Instagram halokada_vegan_patisserie
きなこ

