食の壁に挑むヴィーガンパティシエに聞きました③

食の壁に挑むヴィーガンパティシエに聞きました③

食のボーダレスな未来

ヴィーガンスイーツは、みんなのやさしさで進化する

N’s KITCHEN(以下、N’s)
黎明期からずっとヴィーガンスイーツの最前線で奮闘してこられましたが、この十数年で、ヴィーガンの世界自体も大きく変わりましたよね。

岡田さん(以下、岡田)
本当にそうです。これは僕一人の力では絶対に無理だった。新しい植物性素材を研究開発してくれる食材メーカーや企業さんたちの熱い努力がめちゃくちゃ大きい。
食材をつくる人、届ける人、研究する人、そして食べてくれる人。みんなの「想い」が少しずつ形になって、今の進化があります。「岡田さん、新しい素材ができたので使ってみてください!」って持ってきてくれる熱い担当者さんもいて、本当にありがたいです。

N’s
最初は卵と乳製品の不使用から始まり、最近は「小麦(グルテンフリー)」や「ナッツフリー」への対応など、次々と新たな強敵が現れているそうですね。

岡田
そうなんですよ!コクを出すためのアーモンドパウダーすら使えないとなると「おいおい、まだ無理難題を与えるの!?」と天を仰ぎました(笑)。
でも、そういう困っている人との出会いがあるからこそ、失敗を繰り返しながら技術が進化するんです。
ありがたいことに、『情熱大陸』をきっかけにアレルギーを持つお子さんやご家族(アレっ子ファミリー)の皆さんが、僕のことを「ヒーロー」って呼んでくれるようになって。
実は僕自身、大のヒーロー好きで、漫画『僕のヒーローアカデミア(堀越耕平/集英社)』のNo.1ヒーロー・オールマイトのセリフ、「もう大丈夫! 何故って!? 私が来た!!」が本当に大好きなんです(笑)。
アレルギーで困っているご家族に対して、「この界隈のことは俺に任せておけ、美味しいケーキをつくって待っているから安心しなよ!」という絶対的な安心感を届けたい。

ご家庭で始めるなら、まずはクッキーから

N’s
家庭で気軽にヴィーガンスイーツに挑戦してみるなら、おすすめは何ですか?

岡田
工作感覚で楽しくつくれる「クッキー」が圧倒的におすすめです!
お菓子づくりで一つアドバイスをするなら「お菓子はお料理以上に科学である」ということ。
普段のお料理と違って、お菓子は最初の「配合(数字)」でほぼすべてが決まります。「1gの油断」がオーブンの中で命取りになります。

N’s
…………耳が痛いです。お料理は目分量でなんとかなるのに、お菓子でそれをすると、失敗しますよね。

岡田:あはは、そうなんですよ(笑)。だから家庭でつくる時こそ、まずはレシピの数値をきっちり守り、勝手に食材を置き換えない。それだけで成功率は劇的に上がります。

「代用品」ではなく「新ジャンル」の爆誕

N’s
これまでの岡田さんのお話を伺っていると、ヴィーガンスイーツは単なる「アレルギー対応」という枠には収まらない、もっと大きな「未来の食の選択肢」のように感じられます。

岡田
卵の供給不安や乳製品の価格高騰など食を取り巻く環境が変わる中で、植物性素材だけで満足感を100%再現できる技術は強力な選択肢になります。
我慢して食べる「代用品」ではなく、新しい美味しさのジャンルとして「こっちの方が軽くて美味しいから好き!」と選ばれる未来を、技術の力でつくっていきたい。
卵や乳製品、小麦がなくても、ショーケースを前にした時のあのワクワク感は守り続けられる。ヴィーガンスイーツには、そんな食の未来を広げる可能性が詰まっています。

究極の目標、そして最後に立ちはだかる「ラスボス」

N’s
岡田さんが見据える「食のボーダレス」の究極のゴールは、何ですか?

岡田
「どこでも当たり前に求めるものが買えること」です。
今はまだ、ヴィーガンスイーツやアレルギー対応のお菓子って、専門店に行かなければ買えなかったり、価格が高かったりと、特別なものです。
でも、普通の人が「夜中にちょっと甘いものが食べたいな」とコンビニでスイーツを買うのと同じように、アレルギーを持つ子も、夜遅く塾帰りの学生も、家族へのお土産を探す人も、みんなが同じように近所で選べるようになってほしい。
みんなが当たり前に経験している「普通の日常」を届けたいんです。
だから、いつか僕が監修したヴィーガンスイーツを、全国のコンビニやスーパーに並べたい。
本気で狙っています(笑)。

N’s
コンビニで「hal okada」のスイーツが買える未来、絶対に実現してほしいです!
ちなみに、そんな無敵の岡田さんが今、最も頭を悩ませている難題はありますか?

岡田
……シュークリームです。

N’s
シュークリーム!意外にも、洋菓子の王道ですね。

岡田
これが本当につくれない。悔しいくらいに。ショートケーキも、チーズケーキも、プリンも、チョコレートケーキも、植物性素材だけでつくってきた僕が、どうしても突破できないのが「シュー皮」なんです。もうね、完全に最後の「ラスボス」。

N’s
そんなに難しいものなんですか?

岡田
難しいんです! シューが膨らむのは、卵の水分がオーブンの中で一気に気化して、卵の膜を風船のように押し広げるという「完璧な物理と化学のバトンリレー」があるからなんです。
それを大豆のタンパク質だけでやろうとすると、途中で風船が破れて萎んじゃう。

N’s
なるほど……。

岡田
まさに物理の限界への挑戦です(笑)。
だから、僕の経験値だけじゃなく、食品科学や物理学、植物性素材の最先端の研究をしている専門家の力が必要なんです。
「それっぽいもの」はつくれても、まだ納得のいくクオリティには届かない。だからこそ、専門家の方々とぜひタッグを組みたい。
求む、科学者!求む、勇者です!

N’s
ぜひ実現してほしいです!

【おわりに】

誰かだけが我慢するのではなく、みんなで同じスイーツを囲んで、「おいしいね」と笑い合える場所をつくる。
食べられないものがあるという事実は、時に子どもの心に、小さな寂しさの影を落としかねないもの。
でも、選択肢が一つ増えるだけで、その寂しさは「選ぶ楽しさ」と「共有する喜び」に変わります。

「食べられない」を、「一緒に食べられる!」へ。
そして、これからの食の不安を、少しでも希望へ。

お弁当箱の中に「今日も元気に過ごしてね」と想いを込めるのと同じように、岡田さんのつくるヴィーガンスイーツにもまた、誰かを優しく想うあたたかい魔法が詰まっていました。

岡田春生 PROFILE

  • 1972年、神奈川県横浜市生まれ。
    名門「ザ・ホテルヨコハマ」のパティスリー部門に12年間勤務し、一流のクラシックな洋菓子技術を叩き込まれる。
    2004年、老舗料理店のパティスリー部門へ転職。まだ黎明期だったマクロビオティックスイーツの開発責任者として10年間にわたり数々のメニューを世に送り出す。
    2015年4月、神奈川・鎌倉にヴィーガンスイーツカフェ「hal cafe 229」をオープン。
    2020年8月、東京・広尾(広尾駅2番出口から徒歩1分)にヴィーガンスイーツ専門店「hal okada vegan patisserie」をオープン。遠方の方はオンラインで注文できます。
    アレルギー対応ヴィーガンスイーツの第一人者として、誰もが同じように食を楽しめる「食のボーダレス」の実現に向けて挑戦を続けている。

  • hal okada vegan patisserie 公式サイト
  • Instagram halokada_vegan_patisserie

きなこ きなこ

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